仙川の家

 仙川の保存緑地を背にし、丘陵の斜面に位置するこの敷地は、東京とは思えないほど緑豊かな自然が残る場所です。この敷地を見たクライアントは一目みてこの土地を気に入り、「ここに湯布院にある宿のような家を建てたい」ということで我々に設計依頼がありました。そこで、最初の打ち合わせを鎌倉山にある旧家を改装したレストランで行い、実際の建物なかで話をしながら、設計する家のイメージを「日本家屋」として設計をスタートすることになりました。

 外壁のささら子押さえの杉板下見板張りや、軒の化粧垂木、左官の壁、真壁の内壁は伝統的な日本家屋のイメージとなっていますが、プランはいたってモダン。リビング・ダイニング・キッチンの大きな1室空間に梁現しの勾配天井。2階外周部にはテラスをまわし、浴室には周辺の緑を借景にコーナーウィンドウを設置しました。

 2Fの各窓からはこの敷地を取り囲む木々や、遠く富士山までの眺望、通りを見下ろす楽しみがあります。 また、内部建具にはガラス作家による小窓・水回りのモザイクタイルなどクライアントのこだわりも空間にアクセントを加えています。

 袋小路の奥にたたずむ建物の姿は新築の建物というよりは以前からその土地にあった風情が漂います。新しく造成された土地で、周囲には新築の家が立ち並ぶ街区ですが、家の作り方でこれほどまでに違いがあるのかと、人が作るものの素晴らしさを感じさせる建物です。